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02.B型肝炎
 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染による、急性感染と慢性感染があるが慢性感染のキャリアがもっとも重要です。現在50歳以上の人では依然約2%がHBVキャリアであると概算されています。成人のHBVキャリアの約10%は慢性肝疾患を示すが,残りの90%は肝機能検査が正常な無症候性HBVキャリア(AsC:asymptomatic carrier)です。
 またHBVキャリアが他の疾患に罹患し,ほとんど認識なくステロイド薬や免疫抑制薬が投与され,それらの薬剤の減量時に,時に予期せぬ急性増悪や劇症化がみられることが日常臨床では問題です。

■ B型肝炎ウイルス(HBV)とは?
 ウイルスとは細菌よりさらに小さく、基本的に自分自身を複製するために必要な設計図である遺伝情報(DNAまたはRNA)と蛋白質からなる生物で、生きた細胞(宿主)に感染して初めて増殖することができます。HBVの場合、宿主は人の肝臓の細胞(肝細胞)です。
 HBVは、直径42nm(ナノメーターは1mの10億分の1)で、中心に遺伝情報を保存しているDNADNAポリメラーゼ(DNAを合成する酵素)を持ち、その周りを芯(コア:core=HBc抗原)とさらに外殻(エンベロープ:envelope=HBe抗原)と外膜(サーフェス:surface=HBs抗原)が取り囲む三重構造になっています(下図参照)。人に感染すると肝細胞に侵入し、増殖します。HBVそれ自体は肝炎を引き起こしませんが、ウイルスが人にとって異物と認識された場合には免疫機能が働き、体内から排除しようとします。しかし免疫機能は、肝細胞の中にいるウイルスだけを狙って攻撃することができないため、肝細胞ごと攻撃します。このとき肝細胞が破壊され、肝炎となります。HBVは、肝炎ウイルスの中では比較的感染力の強いウイルスで、血液や体液を介して感染します。しかし、日常生活の場でHBVに感染する危険性は、きわめて低いものです。


■ HBVのジェノタイプ
ジェノタイプ 分布(感染が多い地域)
A ヨーロッパ、北アメリカ、中央アフリカ
B インドネシア、ベトナム、台湾
C 日本、中国、朝鮮半島
D 地中海沿岸、インド
E アフリカ
F アメリカ先住民、ポリネシア諸島
G アトランタ(アメリカ)、リヨン(フランス)
H 詳細不明
■ 感染様式
 B型肝炎ウイルス(HBV)は、ウイルスに感染している人の血液、または体液を介して感染します。感染経路は主に、HBVに感染している母親から、生まれた子供への感染(母子感染:垂直感染)と、それ以外による感染(水平感染)があります。
 垂直感染(母子感染)
 現在、日本のHBV感染者は130万〜150万人いるとされていますが、その多くは母子感染防止策がとられる以前の母子感染によるものです。母親がHBVに感染していると、出産のときに産道において血液を介して赤ちゃんに感染することがあります。乳幼児は免疫機能が未熟なため、HBVに感染してもウイルスを異物と認識することが難しく、また認識できても排除する能力が弱いためウイルスは肝細胞にすみつき、感染した子供は無症候性キャリア(HBVに感染しても肝炎の症状が無く健康な人となります。思春期〜30歳ごろになると免疫機能が発達し、ウイルスを体内から排除しようと肝細胞を攻撃し始めるため、肝炎を発症します。しかし、多くの人は肝炎の症状も軽く、肝障害が進行することは少ないのですが、HBV感染者の約10%の人が慢性肝炎に移行します。また、HBV感染者の約1〜2%の人が、肝硬変、肝臓癌を発症します。
 現在では、母子感染防止策がとられており、新たな母子感染はほとんど起きていません。
 水平感染
 水平感染の原因として以前は、医療従事者の針刺し事故や予防接種での注射器の使いまわし、HBVに汚染された血液の輸血に伴う感染がありました。しかし、ワクチンの接種や医療環境の整備、献血された血液に対する適切な検査の結果、これらを原因としたHBVの感染は現在ではほとんど起きていません。
 その他の原因に、性交渉、ピアスの穴あけや入れ墨などで器具を適切に消毒せず繰り返し使用した場合、注射器を共用し麻薬などを注射した場合などがあります。なかでも近年最も多いのが、性交渉による感染です。よく知らない人と性交渉を持つときには、他の性行為感染症の予防効果もあるコンドームを使用するようにしましょう。しかし、絶対安全ということはありませんので、不特定多数の人と性交渉を持つことはなるべく避けてください。また、パートナーがHBVキャリアの場合、HBV未感染の人は、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)の接種により感染を予防することができます。
 成人になってからHBVに初感染した場合、70〜80%の人は肝炎にならず自然に治癒します。急性肝炎を発症するのは、残りの20〜30%の人ですが、大部分は治癒します。しかし、1〜2%の人は、劇症肝炎を発症し、時に死亡することもあります。また、近年増加しているジェノタイプAのHBVに感染した場合、肝炎が慢性化する可能性が高くなります。
 一過性感染
 一過性感染では、急性肝炎を発症する顕性感染(症状があらわれること)、自覚症状が無いまま治癒する不顕性感染(症状があらわれないこと)に分かれます。急性肝炎の場合でも、不顕性感染の場合でも、症状がおさまった後はウイルスが体から排除されており、HBVに対する免疫を獲得し、その後は再びHBVに感染することはありません。

 持続感染とは、感染したHBVが体から排除されず、6ヵ月以上にわたって肝臓の中にすみつくことで、一部の人は慢性肝炎を発症します。慢性肝炎とは、通常6ヵ月以上肝炎が続いている状態を指します。症状は、症状がないか、“疲れやすい”、“食欲があまりない”など軽いため患者自身が慢性肝炎に気づくことはほとんどありません。しかし、血液検査を行うと肝機能障害が発見されます。まれにB型慢性肝炎では急性増悪という肝機能の急激な悪化のため、だるい、黄疸がでるなどの強い症状があらわれることがあります。多くの場合は、慢性肝炎自体の自覚症状は軽いのですが、肝炎が数年から数十年と長い間続くと、肝硬変、さらには肝臓癌に進む可能性があります。
 急性肝炎とは、肝細胞に炎症が起き、一時的に症状が悪化するものの、数ヵ月以内に治癒する肝臓病のことです。HBV感染後、数ヵ月の潜伏期間を経て、“倦怠感”、“食欲不振”、“吐き気”などの症状があらわれます。その後、皮膚や眼球の白い部分が黄色くなる“黄疸”があらわれることもあります。黄疸は自然に消え、肝機能も正常に戻ります。しかし、急性肝炎を発症した人のうちの1〜2%の人は、劇症肝炎を発症する危険性があります。
 劇症肝炎とは、急性肝炎が急激に悪化し肝細胞の破壊が進行する病気で、高度の肝不全と意識障害を特徴とします。急性肝炎が劇症化する原因は今のところわかっていません。 症状としては、40℃近い発熱、起き上がれないほどのだるさ、強い吐き気などが一度にあらわれます。また、肝機能の著しい低下により、解毒されていないアンモニアが脳にまわることで肝性昏睡(肝性脳症)という意識障害があらわれ、やがて昏睡状態に陥ります。劇症肝炎を発症した人の70〜80%は死亡します。劇症肝炎には、急性肝炎が発病して10日以内に肝性昏睡(肝性脳症)があらわれる急性型劇症肝炎と、11日以降にあらわれる亜急性劇症肝炎があり、亜急性のほうが急性に比べ死亡率が高くなります。

 細菌やウイルスなどの異物(抗原)が体内に侵入したとき、これを攻撃する物質(抗体)が人の体内でつくられます。以下に、B型肝炎ウイルス(HBV)の抗原と、それを攻撃するための抗体を示します。

HBs抗原  HBVの外殻を構成する蛋白質の1つ。HBVに感染していることを示す。
HBs抗体 HBs抗原に対する抗体。過去にHBVに感染したがウイルスが排除されている場合や、HBワクチンを接種すると陽性(+)になる。HBVの感染を防御する働きがあり、過去にHBVに感染したがHBVに対する免疫ができていることを示す。
HBc抗原 HBVを構成する蛋白質の1つ。しかし、外殻の内部に存在するため、そのままでは検出されない。検出するための方法が研究されており、まだ日常検査には取り入れられていない。
HBc抗体 HBc抗原に対する抗体(IgM- HBc抗体、IgG-HBc抗体)の総称。HBVの感染を防御する働きはない。
IgM-HBc抗体 HBV感染初期にあらわれ、数ヵ月後には消える。比較的最近、HBVに感染したことを示し、急性肝炎の診断に使用される。
IgG-HBc抗体 IgM-HBc抗体に少し遅れてあらわれ、ほぼ生涯にわたって血中に存在する。高値ならHBVキャリア、低値なら過去にHBVに感染したことを示す。
HBe抗原 HBVが増殖する際に過剰につくられる蛋白質。肝臓でHBVが活発に増殖している状態で、感染力が強いことを示す。
HBe抗体 HBe抗原に対する抗体。HBVの感染を防御する働きはない。ウイルス量と増殖が落ち着いている状態で、感染力が弱いことを示す。

 医師は、B型肝炎ウイルスマーカーの結果の組み合わせと肝機能検査の結果、さらに問診や病歴、診察所見、精密検査を参考にして現在のB型肝炎の状況を判断します。疑問に思う点があったら自分で判断せず、医師に相談することが大切です。

 以下のような方々は、HBVに感染しているかどうか検査を受けることをお勧めします。
@40歳以上の方(40, 45, 50, 55, 60, 65, 70歳の方は肝炎ウイルス検診が健康診査に含まれています。:平成18年度で終了)
A1972年以前に、手術または輸血を受けた方
B家族にB型慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝臓癌)の患者さんがおられる方
Cよく知らない相手と性行為をした方
D長期に血液透析を受けている方
E妊婦
F入れ墨をいれている方
G医療機関以外で、ピアスの穴を開けた方
Hその他(肝機能検査で異常を指摘されているが、医師の診察や肝炎の検査を受けていない方など)

 HBVに感染しているかどうか判断するためには、感染してからおよそ2〜3ヵ月が必要とされています。また、HBV検査を目的とした献血は絶対に行わないようにしてください。

 B型肝炎ウイルス(HBV)は、血液や体液を介して感染します。空気感染、経口感染することはありません。HBVキャリアの多くは程度の差はあれ、自分が感染源になるのではないかと不安を抱いておられます。ご自身の血液や体液が直接または間接的に他人につかないよう注意をしていれば,通常の日常生活では感染を広げることはほとんどありません。
 具体的には、以下の項目を守るようにしましょう。
@献血は絶対にしない。
A歯ブラシ、ひげ剃り等の血液が付着する日用品は個人専用にし、他人に貸したり、または借りたりしないようにしましょう。
B他の病気で病院に行ったとき、また歯科治療の際は、医療従事者への感染を予防するためにも、医師にB型肝炎であることを告げましょう。
C外傷、皮膚炎、鼻血、月経などで出血したときは、できるだけ自分で手当をし、血液のついたものはむき出しにならないよう包んで捨てるようにしましょう。また、他人に手当てをしてもらう場合は、手当てをする人に血液や分泌物がつかないよう注意しましょう。
D月経時の処理には注意を払い,月経時の排尿,排便の後は常に石けんと流水で手を洗うようにしましょう。
E乳幼児に口うつしで食べ物を与えたり、ひげ剃り痕を押し付けたりしないようにしましょう。
F性交渉で感染するため、パートナーには事前に説明し、パートナーがHBV未感染の場合、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種してもらうようにしましょう。コンドームを使用することで感染の確率を減らすことは可能ですが、絶対安全というわけではありません。
GHBVキャリアの同居家族は一度はHBs抗原,HBs抗体,HBc抗体の有無を調べておくことが望ましい。

慢性肝炎へ
 成人は免疫機能が確立しているため、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染しても、多くの場合は不顕性感染で自然に治癒します。一部の人では、急性肝炎を発症し、一過性の感染を経て治癒します。どちらの場合も、ウイルスは体から排除されており、HBVに対する免疫を獲得しています。しかし、免疫機能が未熟な乳幼児、透析患者、免疫抑制剤を使用している人などがHBVに感染すると、免疫機能がウイルスを異物と認識できないため肝炎を発症しないことがあり、ウイルスが排除されず、ウイルスを体内に保有した状態(持続感染)になります。このように、ウイルスを体内に保有している人を “キャリア”と呼びます。ジェノタイプBやCのHBVの一過性感染により発症する急性肝炎では、キャリア化することはあまりありません。しかし、近年報告が増えているジェノタイプAのHBVに感染した場合、キャリア化する可能性が高くなります。キャリアの約90%の人は一般的に、無症候期から肝炎期、肝炎沈静期と移行し、その後、無症候性キャリアのまま生涯を経過します。約10%の人は慢性肝炎を発症し、肝硬変、肝臓癌へと進行する危険性があるとされています。
 HBVキャリアは,肝障害を示すB型慢性肝炎と肝障害を示さない無症候性キャリア(AsC)に分けられ、さらにAsCはHBe抗原陽性期とHBe抗体陽性期に分けられます。現在わが国のHBVキャリアの大半は,母児間感染を含む乳幼児期の感染で成立したものです。HBVキャリアはその成立早期にはHBe抗原が陽性で,HBV DNAが高値を示し,AST/ALTもほぼ正常で経過しますが,遅かれ早かれHBe抗原のセロコンバージョンが起こり,HBVDNAの減少がみられ,この時期に一致して肝炎の増悪がみられます。HBe抗体の出現が順調であれば,以後HBV量の著しい減少がみられ肝炎も消退し,いわゆるHBVの健康保有者の状態となります。しかし,HBV感染症の特徴は,感染を受けた宿主の個人差が著しく大きいことであり,HBe抗原のセロコンバージョンの起こる年齢,起こり方,起こる強さなどに個人差が大きく,さらにセロコンバージョンが長引けばその間肝炎が持続することになります。時にはHBe抗体ができてもHBVDNAの低下がみられない例もあり、その場合はpre‐C変異株のHBVの増殖が続き,多くは肝障害が持続します。
区分 第T期 第U期 第V期 第W期 第X期
時期 HBe抗原陽性無症候性キャリア期 肝炎期 HBe抗体陽性無症候性キャリア期 キャリア
離脱期
治癒期
HBe抗原 (++) (+)〜(±) (-) (-) (-)
HBe抗体 (-) (±) (+) (+)〜(±) (-)
HBs抗原 (+++) (++) (+)〜(±) (-) (-)
HBs抗体 (-) (-) (-) (±)〜(+) (±)〜(-)
HBc抗体 (+++) (++) (++) (+) (+)〜(±)
解説 HVBが活発に増殖している。血中にも出て感染力が強い。 免疫が働き、HBe抗体でHVBを攻撃中。 HVBは肝臓に限局して細々と増殖中。血中にはほとんど出ず感染力は弱い。 HBs抗体でHVBを肝臓からも追い出そうとしている。感染力はさらに弱い。 HVBは体から追い出された。
肝硬変へ
 慢性肝炎になると、免疫によって攻撃された肝細胞は死滅しますが、肝細胞は再生能力が旺盛なため再生してきます。長年にわたり肝細胞の死滅と再生が繰り返されますが、細胞の再生が間に合わない場合、死滅した肝細胞の部分に、星細胞が線維を作り肝臓が形を保持するのを助けようとします。この線維が増えてしまうと、肝臓は硬くなりゴツゴツとした外見の臓器となります。この状態が肝硬変です。肝硬変になると、肝細胞の多くが破壊され、血液の循環が悪くなるため、肝臓は本来の機能が果たせなくなります。
肝臓癌へ
 通常長い年月の慢性肝炎のために肝硬変を経て肝臓癌を発症すると考えられています。
 ところがB型肝炎の場合、無症候性キャリアや慢性肝炎患者が、肝硬変を経ることなく肝臓癌を発症する事例が少なくありません。原因として、HBVのDNAの一部が肝細胞のDNAに組み込まれ、癌細胞が発生することがわかってきました。そのため、キャリアの方は、肝機能検査値に異常がみられなくても、定期的に肝臓癌を早期発見するための検査をうける必要があります。
セロコンバージョンとは
 キャリアの症状の経過で、ポイントとなるのが“セロコンバージョン:Seroconversion(Sero-: 血清、conversion: 変化)”です。血液中のHBe抗原が陰性(−)となり、HBe抗体が陽性(+)になることを意味しています。セロコンバージョンは、HBVが免疫機能の攻撃をうけて、自分のDNAの一部を変異させることで起こります。免疫機能によってウイルスの活動が押さえ込まれるため、肝炎が沈静化し、無症候性キャリアとなります。
 しかし実際には、セロコンバージョンが起きた後もウイルスが増殖を続け、肝炎が進行し、肝硬変や肝臓癌に移行する人もいることがわかってきました。原因としては、セロコンバージョンの後でも、HBVに変異が起こり、より増殖能力の強いHBVが発生してしまうことなどが考えられています。
 このように、B型肝炎はどのような経過をとるのか判断が難しいため、キャリアの方はたとえセロコンバージョンが起きた後でも、定期的に肝臓の検査を受けるようにしてください。


 肝障害を伴うB型慢性肝炎が定期検診を受けるのは当然であるが,AsCも定期検診を受けることが必要です。HBe抗原陽性のAsCは将来肝障害を発現してくる可能性が高く,しかも肝障害が知らぬ間に起こる場合が少なくないことから,3か月に1回程度の定期観察が必要です。B型慢性肝炎のなかには間欠的に肝障害を示す例があり,これらがAsCと診断されていたり,HBe抗体陽性の代償性肝硬変がAsCと誤診されている例もあり,HBe抗体陽性のAsCであっても6か月に1回程度の定期観察を行うべきです。
 定期観察にあたっては、各種肝機能検査に加えて,HBe抗原,HBe抗体とHBVDNAの定量を行います。AsCであっても定期検診に適宜アルファフェトプロテイン(AFP)の定量や超音波検査を含めることが重要です。B型肝細胞癌は必ずしも肝硬変に併発するものではなく,ごく軽い慢性肝炎に合併したり,AsCと鑑別できないB型代償性肝硬変に併発することがまれでないからです。
 B型肝炎の治療は、大きく分けて、抗ウイルス療法(インターフェロン療法、エンテカビル治療、ラミブジン治療、ラミブジン+アデホビル治療)、肝庇護療法、免疫療法(ステロイドリバウンド療法など)があります。
 B型急性肝炎の場合は、一般に肝庇護療法により、ほとんどの人は治癒します。しかし、B型急性肝炎を発症した人では、劇症肝炎になり死亡する危険性もまれにあるため注意が必要です。
 B型慢性肝炎の場合は、ウイルスを体から排除することはほぼ不可能で、治療の目的は「ウイルスの増殖を低下させ、肝炎を沈静化させること」となります。しかし、B型慢性肝炎を発症したからといって必ずしもすぐに治療を始めなければならないというわけではありません。なぜなら治療をしなくても自然にセロコンバージョンが起こって肝炎が沈静化することが期待できる事例もあるからです。治療開始の判断は、年齢(35歳を境目とする)、ウイルス量、炎症や線維化の程度などを評価し、決定していきます。その結果、セロコンバージョンが起こる可能性が低く、肝硬変へ進行する可能性が高い場合、基本的には、肝炎の進行度が新犬山分類でF2あるいはA2以上の場合に治療が検討されます。このように、“肝臓の状態”を正しく見極めることが治療法を決めるのに重要です。
 B型慢性肝炎、35歳未満の場合自然経過でセロコンバージョンが起きることが期待でき、また治療中の妊娠に対する影響を考慮して、基本的には経過観察が行われます。しかし数ヵ月間の経過観察を行っても、セロコンバージョンが起きず、肝炎が活動性である場合は治療が検討されます。治療法としては、インターフェロン療法、ステロイドリバウンド療法が行われます。エンテカビルやラミブジンなどの内服の抗ウイルス剤はウイルスそのものを死滅させる薬ではなく、ウイルスが増えるのを抑えておく薬ですので、中止をする時期を決めるのが困難です。そのため内服を始めると、長期間服用する必要が生じることが多くなります。そこで、エンテカビル、ラミブジンは胎児への影響が懸念されているため、妊娠(を望む)可能性のあるこの年代ではなるべく使用を避けます。またラミブジン治療を長期間行うと、ラミブジンの効かないウイルス(ラミブジン耐性株)の出現が問題となるため、急性増悪による肝予備能の低下、重症あるいは劇症肝炎の場合を除きなるべく使用を控えます。
 35歳未満でHBe抗原陰性(−)ならびに肝機能に特別な異常がなければ、経過観察を続けます。
 B型慢性肝炎、35歳以上の場合セロコンバージョンが起こる可能性が低く、肝硬変へ進行する可能性が高い場合、エンテカビルあるいはラミブジン治療を行い、肝機能の正常化、HBV増殖抑制を目指し、肝硬変、肝臓癌への進行を阻止します。しかし、ラミブジン治療を長期間行うと、ラミブジン耐性株が高頻度に出現し肝炎が再び起きる事例が多く、その場合にはアデホビル治療の追加、あるいはエンテカビル治療への変更が検討されます。
 エンテカビルの抗ウイルス作用は高く、ラミブジンを1とすると、約1,500という薬理試験の結果が得られています。エンテカビルの効かないウイルス(エンテカビル耐性株)の出現も低いとされています。また、ラミブジン耐性株に対しても効果があります。
 以下に慢性肝炎の治療方針を示します。

  HBV DNA ≧7LGE/mL
(107copies/mL)
<7LGE/mL
(107copies/mL)
35歳未満 HBe抗原陽性 IFN長期間欠 IFN長期間欠
HBe抗原陰性 経過観察
(進行例はラミブジン、
エンテカビル)
経過観察
(進行例はラミブジン、
エンテカビル)
35歳以上 HBe抗原陽性 1.ラミブジン
(エンテカビル)
2.IFN長期間欠
ラミブジン
(エンテカビル)
HBe抗原陰性 ラミブジン
(エンテカビル)
ラミブジン
(エンテカビル)
厚労省班会議による平成17年度B型慢性肝炎の治療ガイドラインより抜粋

 現在、多くの慢性肝炎に対する治療法が存在しています。基本的には上記の治療方針にそって治療が検討されますが、B型肝炎は経過の個人差が大きいため、必ずしもこの限りではありません。医師とよく相談をし、納得をした上で治療方針を決めていくことが大切です。
■ インターフェロン療法
(作用)
 インターフェロンとは、ウイルスの感染を受けた時などに体内で作られる蛋白質の一種です。人工的に生産したインターフェロンを体外から注射によって補うのが、インターフェロン療法です。主な作用として抗ウイルス作用や免疫増強作用、抗腫瘍作用などが知られています。B型肝炎の場合は、20〜30%の人に効果があらわれるとされています。
(副作用・注意事項)
 インターフェロンの副作用として主なものをあげます。また、使用するインターフェロンの種類によって副作用の出る時期は多少異なります。
 投与から1〜2週間後に、「38℃以上の発熱、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感」といったインフルエンザのような症状があらわれます。
投与から3週〜3ヵ月後に、うつ症状や不眠などの精神症状がみられることがあります。うつ症状がひどくなった場合、自殺につながる危険性があるため注意が必要です。
投与から3ヵ月後ごろから、脱毛を生じることがあります。インターフェロンの投与が終了すると回復します。
その他、血小板や顆粒球の減少、発疹、食欲不振などさまざまな副作用があります。副作用によっては治療を中止しなければならないものもあるため、体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう。また、インターフェロン療法と小柴胡湯(しょうさいことう)の併用は間質性肺炎が起きる危険性があるため禁止されています。
■ エンテカビル治療、ラミブジン治療
(作用)
 エンテカビル、ラミブジンは抗ウイルス作用を持つ経口薬で、DNA(デオキシリボ核酸)の材料となる物質に似た構造を持っているため「核酸アナログ」と呼ばれています。B型肝炎ウイルス(HBV)のDNA合成を阻害する作用があるため、ウイルスの増殖を抑制します。セロコンバージョンが起こる割合はインターフェロンと比べ高いわけではありませんが、ウイルス量を減らす作用が強く、また、副作用もインターフェロン療法と比較して少ないとされています。
(副作用・注意事項)
 副作用として比較的あらわれやすいのは、頭痛や倦怠感です。その他は少ないとされていますが、副作用によっては治療を中止しなければならないものもあるため、体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう。また、治療中止後に肝機能が悪化する事例があるため、自分の判断で薬をやめたりせず、治療終了後もしばらくの間は定期的に検査を受ける必要があります。
 ラミブジン治療を長期間行うと、ラミブジンの効かないウイルス(ラミブジン耐性株)が高頻度(1年で約20%)に出現し、改善していた肝機能値が再び悪化することがあります。その場合は、ラミブジン治療を続けながらアデホビル治療の追加を開始するか、あるいはエンテカビル治療への変更が検討されます。アデホビルもウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス作用のある経口薬です。
 一方、エンテカビルの抗ウイルス作用は高く、ラミブジンを1とすると、約1,500という薬理試験の結果が得られています。エンテカビルの効かないウイルス(エンテカビル耐性株)の出現も低いとされています。また、ラミブジン耐性株に対しても効果があります。
 エンテカビル、ラミブジンとも胎児への影響が懸念されているため、治療中は男女とも避妊をする必要があります。
 肝庇護療法とは、肝臓が破壊されるのを防ぎ、肝機能を改善させることを目的とした治療法です。原因であるB型肝炎ウイルス(HBV)を直接攻撃するわけではないので、長期間続ける必要があります。代表的なものに、グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸、小柴胡湯(しょうさいことう)があります。
■ グリチルリチン製剤
(作用)
 主成分はグリチルリチンで、マメ科の薬用植物である甘草(かんぞう)から抽出されます。代表的なものとして、静脈注射用の強力ネオミノファーゲンシーRがあり、その治療目的は肝炎の進行を抑えて、今以上に肝細胞が破壊されないようにすることです。毎日注射をすると、効果がある場合は、2週間程度でALT(GPT)やAST(GOT)の値が低下します。ウイルスを直接攻撃するわけではないので、ウイルス量を減らす作用は強くありませんが、免疫力の増強や肝機能改善、体内でのインターフェロン合成を促進する作用があります。インターフェロン療法が効かなかった人、副作用が原因でインターフェロンが使用できない人、肝硬変の人、高齢者などが使用します。
(副作用・注意事項)
 副作用としては、血液中のカリウムの低下、血圧の上昇、むくみ、発疹などがあります。副作用によっては治療を中止しなければならない場合もあるため、体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう。
■ ウルソデオキシコール酸
(作用)
 ウルソデオキシコール酸は経口薬で、漢方薬の熊胆(くまのい)の成分を化学的に合成した胆汁酸製剤です。熊胆は古くから胃腸薬として漢方医療で使用されています。胆汁の分泌を促進し、脂肪の消化・吸収を助けることにより、胃腸機能を改善します。また、肝臓の血流を増加させることで、肝細胞を保護する作用があり、AST(GOT)、ALT(GPT)値を低下させます。しかし、ウルソデオキシコール酸には抗ウイルス作用はありません。また、C型肝炎の方に対しては、B型肝炎の方以上の効果があることが明らかとなっています。
(副作用・注意事項)
 副作用は、頻度不明ながらも間質性肺炎が報告されています。その他、下痢、悪心、嘔吐、発疹などがあり、副作用によっては治療を中止しなければならない場合もあるため、体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう。
■ 小柴胡湯(しょうさいことう)
(作用)
 小柴胡湯は、柴胡(さいこ)、黄ごん(おうごん)、半夏(はんげ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、人参(にんじん)、生姜(しょうきょう)の7つの生薬を処方した漢方薬です。柴胡、人参に含まれているサポニンという成分にはステロイド様の作用があり、細胞膜の保護や抗炎症作用、抗アレルギー作用などがあるため、慢性肝炎に使用されています。
その治療目的は、肝炎を抑えて肝機能を改善し、AST(GOT)、ALT(GPT)値を低下させることによって、病気の進行を遅らせることです。
(副作用・注意事項)
 インターフェロン療法との併用、肝硬変の人、肝臓癌の人は、間質性肺炎が起きる危険性があるため使用は禁止されています。その他、食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、発疹などがあり、副作用によっては治療を中止しなければならない場合もあるため、体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう。
■ ステロイドリバウンド療法
 ステロイドは副腎皮質ホルモン剤とも言われ、使用すると体の免疫機能を低下させる働きがあります。ステロイドリバウンド療法とは、ステロイドを使用することで一時的に体の免疫機能を低下させ、その後、使用を急に中止することで人本来の免疫力を一気に活性化させ、B型肝炎ウイルス(HBV)を攻撃する治療法です。
 またHBVキャリアが他の疾患に罹患し,ほとんど認識なくステロイド薬や免疫抑制薬が投与され,それらの薬剤の減量時に,時に予期せぬ急性増悪や劇症化がみられることが日常臨床では問題です。
(作用)
 プレドニゾロンというステロイドの一種を使用すると、免疫機能が低下してHBVが増殖します。HBVが増殖しても、B型肝炎の症状はおさまります。なぜなら、肝炎とはHBVそれ自体が引き起こしているのではなく、ウイルスを異物と認識した免疫機能が肝細胞を破壊することで引き起こしているからです。比較的多量に短期間ステロイドを使用し急にやめると、その反作用で本来人が持つ免疫力が急激に活性化し一気にウイルスを攻撃します。
(副作用・注意事項)
 ウイルスが活発に増殖している状態では、肝細胞が大量に破壊され肝炎の重症化を招く危険性があるため、入院をし、慎重な経過観察が不可欠となります。また、自分の免疫力で肝細胞の中にいるウイルスを一気に攻撃する療法のため、治療に耐えられる肝臓の予備能力(肝臓に悪い部分が生じても他の部分がその機能を補う能力)が必要です。そのため、B型肝炎の方なら誰でも可能な療法ではなく、下記に該当する場合は肝炎が重症化する可能性があるため、行うことができません。
肝硬変の方
黄疸がある方(過去に黄疸がでたことのある方)
AST(GOT)値がALT(GPT)値より高い方
AFP値が高い方
HBV DNA量の値が異常に高い方
また、治療中に体に異常を感じた場合はすぐに医師に相談しましょう

■ 母子感染の防止方法
 妊娠中にお母さんの血液中のHBVが、胎盤を通して赤ちゃんの血液に移ることはあまりなく、大部分は分娩時、つまり赤ちゃんが産道を通る時にお母さんの血液にさらされることによって感染が起こると考えられています。HBVの母子感染を防止するためには、産まれてきた赤ちゃんに、HBVに対する抗体を含む高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)やB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種することが必要です。たとえ母親がHBe抗原陽性であっても,HBVの母児間感染の95%は防御できることが証明されています。1986年に始まったHBV母児間感染防止対策事業により,小児においては近年著しく減少しています。今後はむしろ母児間感染防御の必要な症例の減少に伴う実施率の低下が危惧されています。また,いったんHBs抗体を獲得した児であっても,follow‐upが不十分でHBs抗体の低下に気づかず,生後1年以上してからキャリア化することもあるので,状況によってはHBワクチンのブースター投与を考慮する必要があります。

■ HBVの院内感染事故対策
 暴露前対策 HBVは血液ウイルスの代表的な感染因子であり,HBVの感染防止対策は他の血液伝播性の感染因子のモデルとなります。まず医療従事者がHBVやB型肝炎に対して正しい知識を持ち,基本的な操作を行うことが大切です。採血、注射、点滴、内視鏡検査、透析、手術など観血的な処置を行う場合にはできるだけディスポーザブル製品を使用し、不可能な場合には十分滅菌,消毒をして再使用します。特に針刺事故の多い使用後の注射針はリキャップせず,直接専用の廃棄容器やポリタンクなどに入れ,さらに医療用廃棄物による注射針の誤刺などにも注意が必要です。特に血液に接する機会の多い医療従事者はHBs抗原・HBs抗体の有無を確かめたうえで、HBワクチンの接種を受けることが望ましい。ただ,HBワクチンにより,HBs抗体を獲得すると、“B型肝炎は恐ろしくない”という慢心に陥りやすいが100%感染を防げるわけではないことに留意すべきです。
 暴露後対策 医療従事者がHBVの汚染を受けた場合には,まず汚染部位の血液を搾り出し,流水で十分洗浄します。感染量を少なくすることがでます。そのうえで,被害者がHBs抗体陰性であれば、HBIGをできるだけ早く,少なくとも24‐48時間以内に投与します。汚染源がHBe抗体陽性で,かつHBVDNAが少ない場合は(肝機能検査が正常な無症候性HBVキャリアの場合が多い),HBIGの投与のみでほぼ完全に感染を防御でます。汚染源がHBe抗原陽性の場合はHBIG投与のみでも80%は感染を防御できますが、0%はHBIGをすりぬけて感染が成立し、感染例の1/3はB型肝炎を発症します。したがって,この場合はHBIG投与に加えて,0,1,2か月後にHBワクチンを投与します。
 なお,HBe抗体陽性でもHBVDNAが多い場合は(HBe抗体陽性でも,肝機能検査が高値を示し,活動性肝炎が存在する場合が多い)、pre‐C変異株の増殖が強い可能性が高く、そのようなHBV株に感染すると劇症肝炎となる危険が少なくないことから、HBe抗原陽性の汚染と同じくHBIGにHBワクチンを併用すべきです。いずれの場合もHBs抗体の出現を確認するとともに,最初の6か月間は1‐2か月ごとに,その後は3か月ごとに,汚染後少なくとも1年後まで経過観察します。


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