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内科09.高尿酸血症(痛風)
58歳男性。体重85kg。血圧の薬を内服中。ゴルフを仲間としたあとで居酒屋にいって焼き鳥でビールをたらふく飲んだ。酩酊状態で帰宅、就寝後夜中の3時頃急に右足に痛みを感じて目が覚めた。翌朝受診。その足の写真。

 典型的な痛風発作です。
 欧米では帝王病(ていおうびょう)などといわれるくらい、ぜいたく病の一種とされていました。以前の日本では珍しく、診断できれば名医などといわれた時代もあったとか。現代日本の美食文化への変貌から、ずいぶん一般的な病気になってしまっています。いまでは患者さんから痛風じゃないかと思う、などと自己申告があります。病気が多くなると中高年の病気と思われていたものが30代でもでてくるようになりました。公衆衛生の用語で若年前進傾向などというのだそうです。

● 痛風の定義
 血液中の尿酸の濃度が上昇して結晶となり関節や腎臓に沈着する病気です。高尿酸血症と同義です。血清中の尿酸値が7.1mg/dL以上の場合を高尿酸血症=痛風と呼びます。関節に沈着して関節炎を起こすことを痛風発作といいます。腎臓に沈着して腎機能障害を起こすことを痛風腎といいます。
● 尿酸とは何か
 細胞の核などにある核酸(DNAやRNA)の構成単位であるプリン体という物質の代謝によって生じた燃えかすが尿酸です。からだの中の細胞は、毎日新しくつくられていく一方、古いものは壊れていきます。したがって核酸も常に全身で合成・分解を繰り返しているため尿酸も毎日できているということになります。もう使えない燃えかすなので排出しなければならない。その75%は腎臓の糸球体でろ過されて尿中に排泄され、残りは胆汁とともに腸などから排泄されます。大部分は腎臓から尿に排出されることを覚えてください。あとで重要になってきます。ちなみに尿酸という名前は読んで字の通り「尿に排泄される酸」という意味だそうです。
 尿酸の基準値は、おおよそ「 4.0〜7.0mg/dL:女性、5.0〜8.0mg/dL:男性」が正常とされています。基準値というと20歳〜30歳の健康な人の測定値の平均に基づいています。男性の8.0mg/dLというのは「正常値」なのでしょうか。
 尿酸の飽和濃度は7.0mg/dLです。7.0mgというと1gの千分の7です。茶さじ一杯というよりも耳かきにのる量です。これが100ccの水にやっと溶ける。それ以上だと結晶になってしまう。食塩の飽和濃度は25g/dLです。100gの食塩の飽和溶液の中に25gの食塩があるということなので75gの水に25gまで溶ける、ということになります。だからおよそ(25÷75)÷(0.007÷100)=4762倍食塩は水に溶けやすい。反対に尿酸は食塩の4762倍水に溶けにくい。こんな溶けにくいものが男性の場合、飽和濃度ぎりぎりか超えたところ(過飽和)にあるため何かあったら析出・結晶化してしまう。だから化学的な危険性から正常値を7.0mg/dL以下にすべきなのです。血清中の尿酸値が7.1mg/dL以上の場合を高尿酸血症=痛風と定義されている理由です。この基準だと男性の大部分は高尿酸血症になってしまいますが。

(写真)尿酸は窒素を含んだ化合物で、無味無臭で細かく白い結晶です。尿酸値が上昇することで、針状結晶が大きくなり患部に物理的、生物的炎症を起こしすため激痛を発症します。この写真は発作が起こった関節からとられたもので白血球が尿酸の結晶を飲み込んだ状態を写しています。

● 尿酸値上昇のメカニズム
 体内で毎日0.5g程の新たな尿酸が自己生成(もとは食事)され、更に食事から直接0.1g程を吸収されて、その0.6gが排泄されています。しかし、
(1)過食や美食で尿酸の経口摂取が増える。
(2)過度の運動や筋肉疲労で尿酸の自己生成が増える
(3)慢性高血圧・腎不全などで腎臓からの排泄量が減る
(4)脱水・肥満で体液量が減る
(5)ラシックス系の利尿剤は直接尿酸値を上昇させます。
などで尿酸値は上昇します。
 もともと飽和濃度に近いので上記のような要因が重なると痛風発作を起こします。
 本症例の場合をふりかえると
体重85kg→肥満です。
血圧の薬→高血圧・腎不全もしかしたら利尿系の血圧の薬かも。
ゴルフ→過度の運動や筋肉疲労があった。
焼き鳥→過食や美食。
ビール→ビール自身プリン体多し、またアルコール性利尿により脱水になる。
このように複数の原因が重なって痛風発作になったと思われます。要因が一つ二つではホメオスターシスが働き尿酸値はほとんど上昇しないことが多くの研究で立証されています。
 また痛風発作は女性に対して男性の方が圧倒的に多く、男性100人に対して女性1人の割合だそうです。私も医者になって25年たちますが女性の痛風発作をまだ診たことがない。本症例の「男性」というのがもっとも大きなリスクファクターなのかもしれない。
 さらに尿酸値は遺伝による影響があるともいわれます。

 高尿酸血症が長く続くと高尿酸血症患者のうち10%の方が痛風発作を発症すると言われています。
 90%は痛みがないまま経過します。でもどちらかというとこちらのほうが恐ろしい。痛風腎ひいては腎不全になっていく可能性があるからです。 痛風とは体全体の病気です。関節だけの病気でない、という認識を持ってください。 また高血圧、高脂血症、糖尿病なども多く合併するため心疾患、脳血管疾患の危険が高い。そういった意味で命を脅かす病気です。
 その他の合併症として尿路結石と痛風結節があります。

(写真)痛風の患者さんは一般の人の何倍も尿路結石ができます。無症状のこともありますが、背中が激しく痛み血尿がでることもあります。
(写真)耳介や足の親ゆび、肘関節などに痛風結節ができます。組織をとって調べると尿酸の結晶が証明できます。確定診断になると同時にすると痛風が重症であることをあらわしています。同様に好発部位の足ばかりでなく膝や手首あるいは同時に二つ以上の関節に出てくると重症です。



 住民検診や健康診断の結果などで尿酸値が高いと診断されたら、まずは迷わず病院で精密検査を受けましょう。医師の所見をもとに正しく治療していくことが肝心です。
 痛風発作は中年以降の男性に多く高血圧、高脂血症、糖尿病なども多く合併するため、血液検査、心電図検査、眼底検査など、人間ドックなみの検査を行ないます。
 高血圧、高脂血症、糖尿病などの合併症があれば、それらの治療もあわせて行ないます。
 血清中の尿酸値が7.1mg/dL以上の場合を高尿酸血症と呼びます。
 7.1〜7.5mg/dLであれば、軽症ですが、まず心配ない範囲とされます。しかし、多少は食事、飲酒、体重などに気をつけたほうがよいでしょう。
 7.6mg/dL以上では経過観察が必要で、食事に注意しながら、定期検査を受ける必要があります。
 尿酸値が持続的に8.0mg/dLをこえる場合には、現在痛みがなくても、痛風や腎臓障害の発症を予防するために精密検査や治療が必要になります。
 いずれにせよ生活習慣の改善食事の改善お薬が治療の三本柱です。
● 生活習慣の改善
(1)うっすらと汗をかく程度の運動(有酸素運動)を出来れば毎日心がけることが大切です。身体的にも健康ですし、ストレス解消にもなります。激しい運動(無酸素運動=はぁはぁ・ゼイゼイとなる程の運動)は逆効果(かえって尿酸値が上昇します)ですので注意してください。
(2)精神的ストレスの発散も大切です。一生懸命でストレスを溜めやすい人、ライバル心をいだきやすい性格の人は、尿酸値上昇傾向にあると言われています。
● 食事の改善
(1)高尿酸血症の敵、プリン体を多く含む食品の”過剰摂取”に注意しましょう。
高尿酸血症、痛風の治療は、食事療法と薬によって行ないます。食事はプリン体の多い食品を少なくするようにします。
<<プリン体の多い食品と少ない食品>>
プリン体を非常に多く含む食品…にぼし、かつおぶし、レバー(牛・豚・鶏)、干ししいたけ
プリン体を多く含む食品…ビール(注1)、牛肉ヒレ、豚ロース、かつお、まぐろ、くるまえび、にしん、ひらめ、たらこ、いわし、あさり、はまぐり、大豆
プリン体の少ない食品…カリフラワー、ほうれんそう、焼き板かまぼこ、焼きちくわ、えのきたけ、ウインナソーセージ
プリン体をほとんど含まない食品…鶏卵(注2)、チーズ、牛乳、キャベツ、にんじん、きゅうり、パン、果物
 プリン体を多く含む食品について、全面的に制限するという考え方ではなく、同じ食品でもプリン体を含む他にも健康の為に必要な栄養素が含まれていますので、食材ばかりを気にするよりも、プリン体の多い食品を少なくするようにし、食事全体のバランスに留意して総カロリーをおさえ、アルコールは控えめに、標準体重を維持していくことを目標に考えていくと良いです。さらに野菜、海藻、牛乳などのアルカリ性食品を充分に摂取することもお忘れなく。(調理は尿酸を溶かし出す”茹でる”を基本にします。)

(注1)アルコールの過剰摂取も尿酸の増加を促します。特にビールは焼酎等の何百倍ものプリン体が含まれており、清酒、ワインもプリン体が多いです。1日量、清酒なら1合、ビール中びんは 1本、ウイスキーは1杯程と限度した方がよいでしょう。酒の肴が必要であれば、チーズ、白身魚、野菜類、海藻類などがよいでしょう。
(注2)何となく尿酸が高いと思われていてそうでないのが卵。鶏卵は細胞が細胞1個なので、DNAは核1個分。プリン体の量は事実上ゼロに近い。卵の粒が小さいイクラやタラコ、キャビア、ほかにはレバーやあん肝、白子など内臓や精巣、卵巣関連の食べ物にはある程度含まれる。ただし卵はコレステロールが高いのでご用心。

(2)尿酸を排出する為、1日2リットルの排尿を水分補給で促しましょう。尿酸を尿と一緒に出すのです。
 間違っても「ビールで排尿を促進すればいい」なんて考えないで下さい。ビールはプリン体の宝庫であることはご存知のとおり。ビールと水分はここでは別物と考えましょう。ビールを飲んでからの排尿は、アルコールの利尿作用により飲んだ以上に水分が排泄されます。ゴルフをして風呂上りのビールは格別!ですが、スポーツや入浴で汗をかき、失われた水分はビールでは補えません。
● お薬
『尿酸値上昇のメカニズム』でも述べましたが、高尿酸血症に至る原因は大きく分けて2つあります。
・何らかの異常等によって尿酸が腎臓からスムーズに排泄されない場合
「尿酸排泄促進薬として、ベンズブロマロン(ユリノーム、ベンズマロン、ムイロジン、ナーカリシン)、プロベネシド(ベネシッド)、ブコローム(300mgパラミヂンカプセル)等」
・尿酸が体内に多く作られてしまう場合
「尿酸合成阻害薬として、アロプリノール(ザイロリック、サロベール、アデノック、アロシトール、リボール)等」
・これ以外に尿をアルカリにすれば尿酸はたちどころに溶けてしまいます。薬としてはウラリットU(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム複合剤)などがあります。上の分類に強いて入れれば排泄促進になりますか。
・また発作時には特効薬コルヒチンがあります。この薬は原動体の分離を抑制して細胞分裂を止める薬なので医師の指導のもと短期間で切り上げてください。
【注意】
尿酸をおさえる薬は、相当長期間、場合によっては一生服用しつづけなくてはなりません。尿酸値が下がったからといって、自己判断で薬の服用を中断等せず、必ず医師の指示に従いましょう。また肝障害などの副作用があることもありますので医師の指導のもとで続けてください。ラシックスなどの利尿剤でも尿酸が上昇しますので飲み合わせの指導も受けてください。またお薬だけに頼らずに、生活習慣の改善が尿酸値改善の基本ですので、合わせて、食生活や水分摂取、適度な運動とストレス解消に心がけるようにしましょう。




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