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血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態です。高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクとなる点で臨床的な意義は大きい。
また、肥満、高脂血症、糖尿病との合併することが多く、これらの合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されてきました。これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれることが多いです。
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■ 高血圧の基準 日本高血圧学会2004
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分類 |
収縮期血圧(mmHg) |
かつ または |
拡張期血圧(mmHg) |
至適血圧 |
<120 |
かつ |
<80 |
正常血圧 |
<130 |
かつ |
<85 |
正常高値血圧 |
130〜139 |
または |
85〜89 |
軽症高血圧 |
140〜159 |
または |
90〜99 |
中等症高血圧 |
160〜179 |
または |
100〜109 |
重症高血圧 |
≧180 |
または |
≧110 |
収縮期高血圧 |
≧140 |
かつ |
<90 |
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即ち、収縮期血圧が140以上または拡張期血圧が90以上に保たれた状態が高血圧であるとされています。しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まる為、収縮期血圧で120未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされています。
また「血圧が高い状態が持続する」ことを問題にしており、運動時や緊張した場合などの一過性の高血圧については問題にしていません。高血圧の診断基準は数回の測定の平均値を対象としている。運動や精神的な興奮で一過性に血圧が上がるのは生理的な反応で高血圧とは呼ばないのです。
■ 家庭で血圧を測る場合
日本高血圧学会によれば「家庭血圧測定条件設定の指針」 のなかで
・測定部位は上腕が推奨。手首、指血圧計の使用は避ける。
・朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、朝食前の安静時、座位1〜2分後に測定。
・夜の場合は就床前の安静時、座位1〜2分後に測定。
・朝夜の、任意の期間の平均値と標準偏差によって評価。
・家庭血圧は135/85 mmHg以上は治療対象、125/75 mmHg未満を正常血圧。
などとしています。
■ 日内変動
血圧は1日の中でも変動しています。
普段家にいるときの血圧値は正常なのに病院などで、お医者さんや看護婦さんの白衣を見ると緊張し血圧が上がる場合があります。このことを白衣高血圧といいます。
逆に病院での測定時には正常なのに普段は血圧が高いことを、仮面高血圧といいます。この仮面高血圧の原因は、普段喫煙や仕事でのストレスなどで血圧が高くなっているが、病院行くことにより待ち時間でリラックスできて血圧が下がってしまう場合や、薬を服用中で測定時にはよく効いていてその後徐々に弱まってくる場合などがあります。
血圧の日内変動で注目されているのが早朝高血圧です。
血圧は一日のうちに上げたり下げたりを繰り返しています。通常、血圧は朝が高く夜寝ている間は低くなっています。特に早朝の上がり方がが著しく、朝と夜の上の血圧を足して割った平均値が135以上、差が15から20以上あれば、早朝高血圧であると考えられます。降圧薬を服用して昼間の血圧が正常な人で、早朝高血圧の人は2人に1人であるといわれています。
早朝高血圧にはディッパー型とノンディッパー型の2種類があります。ディッパー型は、朝目がさめると同時に血圧が急上昇するタイプで、ノンディッパー型は、夜血圧が下がらないままなだらかに上昇するタイプです。早朝高血圧は、加齢とともにノンディッパー型が増加し、脳血管疾患や虚血性心疾患がになる確率が増加し、糖尿病、心不全、睡眠時無呼吸症候群の多くがこのタイプです。
朝の血圧上昇は、2つのことが重なっておこります。一つは体内時計に従って目覚める頃、脳下垂体が副腎皮質ホルモン(コンチゾール)を分泌させるよう指令が出て分泌されると、血管を収縮させて血圧を上げ、体を動きやすくすることです。もう一つは、目が覚めて交感神経が動き始めノルアドレナリンが分泌され血圧上昇だけでなく、血管の収縮により血液が流れにくくなったり、血液が固まりやすくなります。この大脳と目覚めにより、早朝高血圧が起こります。
なぜ早朝高血圧が危険であるかというと、朝の急激な血圧上昇は、脳卒中や心筋梗塞など命にかかわる病気(特に朝の6時〜10時ぐらいが多い)と深く関係しているからです。早朝高血圧の人は、脳・心血管疾患の危険性が3〜6倍高いといわれています。最高血圧、最低血圧ともに、高くなるほど早朝の危険性に関連があります。
早朝の血圧値と夜間の血圧値の差が大きい状態をモーニングサージといいます。モーニングサージのある患者は、脳卒中発症の危険性が約3倍高いといわれています。
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高血圧は腎血管性高血圧や原発性アルドステロン症などによって生じる「二次性高血圧症」と原因が明らかでない「本態性高血圧症」に分類されます。高血圧症の中で原因のわからないものを本態性高血圧症としているので、本態性高血圧の原因はわからないわけですが、単一の原因ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生するとされています。(モザイク説)
(1)遺伝:両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすいとされています。
(2)塩分:日本人の食塩摂取量は1日平均12gであり、欧米人に比べて多い。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬け、味噌汁を食べる習慣など日本独自の食生活と関連があります。日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされます。食塩(塩化ナトリウム)だけでなく重曹(炭酸水素ナトリウム)などを含む食品やナトリウムを含む胃腸薬の摂取に対しても注意が必要です。
食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因があります。細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしています。即ち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進されます。反対に濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進みます。結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は濃度を一定に保つ為、水分量もそれに相関して保持され全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となります。腎のナトリウム排泄能を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来します。ナトリウム過剰で高血圧を来たし易い遺伝素因も存在する事が確認されています。
(3)ストレスや肥満なども高血圧の発症に関与するとされています。
(4)血圧反射機能の障害なども高血圧の発症に関与するとされています。
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(5)年齢:高血圧の割合は年齢とともに増加しますが、最近では若年層に高血圧が増加していることが問題となっています。現在、日本における高血圧の人口は約3,400万人いるとされ、生活習慣病の代表といっても過言ではありません。
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高血圧が持続すると強い圧力の血流は動脈の内膜にずり応力を加わると同時に血管内皮から血管収縮物質が分泌される事で、血管内皮が障害されます。この修復過程で粥腫(アテローム)が形成され、動脈硬化の原因となります。慢性的疾患は大きく 「脳血管障害」、「心臓疾患」、「腎臓疾患」、「血管疾患」の4つに分類され、高血圧によって生じる動脈硬化の結果、以下のような合併症が発生します。このためサイレントキラー(沈黙の殺し屋)などと呼ばれます。
■ 脳卒中
脳出血と脳梗塞及びクモ膜下出血に分類されるが、高血圧と関連が深いのは前2者です。脳出血は高血圧ともっとも関連するが、最近は降圧薬治療がうまく行われるようになった為、その頻度は減少してきています。一方脳梗塞の頻度は寧ろ増加し、その発症年齢も高齢化しています。脳卒中の結果として片麻痺、失語症、認知症など寝たきりの原因となりやすい後遺症を残す為、社会的、経済的観点からも高血圧の予防は極めて重要です。脳卒中の発症を予測する上では,収縮期血圧(Systolic Blood Pressure;SBP)が脈圧・拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure;DBP)などと比べ、性や人種に関係なく、最も重要な因子であるという論文が American Journal of Hypertensionの2007年3月号に掲載さました。
■ 心臓疾患
@虚血性心疾患
心筋梗塞や狭心症などの冠動脈の硬化によって心筋への血流が阻害される事で、心筋障害をきたします。高血圧が虚血性心疾患の重大な危険因子である事は間違いがないが、高コレステロール血症、喫煙、糖尿病、肥満などの関与も大きい。最近は腹部内蔵型肥満に合併した高血圧や高トリグリセライド血症、耐糖能異常などが冠動脈疾患のリスクであるとされ、メタボリック症候群とよばれています。
A心肥大、心不全
高血圧が持続すると心臓の仕事量が増えて、心筋が肥大します。肥大した心筋はさらに高血圧の負荷によって拡張し、最終的には心不全に陥る。また肥大した心筋では冠動脈からの血流も減少する為に、虚血に陥りやすく、不整脈、虚血性心疾患の大きなリスクとなります。
■ 腎障害
腎臓の糸球体は細動脈の束になったものであり、高血圧によって傷害されます。また、糸球体高血圧がレニン-アンギオテンシン系を賦活するためさらに血圧を上昇させる。糸球体は廃絶すると再生しない為、糸球体障害は残存糸球体への負荷を更に強める事となる。最終的には腎不全となり人工透析を受けなければならず、やはり社会的、経済的な負担は大きく、その進展予防は重要です。
■ 血管疾患
@動脈瘤
胸部や腹部の大動脈の壁の一部が動脈硬化性変化によって薄くなり、膨隆した状態を大動脈瘤よび、内径が5cm以上になると破裂する可能性が高くなるので、手術も考慮します。また血管壁の中膜が裂けて、裂け目に血流が入り込み、大血管が膨隆する状態を;解離性大動脈瘤 といい、生命を脅かす危険な状態です。
A閉塞性動脈硬化症
主に下肢の動脈が、動脈硬化によって著しく狭小化するか、あるいは完全に閉塞した状態です。数十メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まると回復する(間欠性跛行)場合には、この疾患が疑わしい。
B眼障害
高血圧性網膜症や、網膜動脈・網膜静脈の閉塞症、視神経症など様々な眼障害が起こります。
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■ 降圧目標 日本高血圧学会2004
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高齢者 |
140 / 90mmHg未満 |
若年・中年者 |
130 / 85mmHg未満 |
糖尿病・腎障害患者 |
130 / 80mmHg未満 |
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■ 高血圧患者のリスクの階層化 日本高血圧学会2004
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血圧分類
血圧以外のリスク要因 |
軽症高血圧症 140-159/ 90-99mmHg |
中等症高血圧症 160-179/ 100-109mmHg |
重症高血圧症 180以上/ 110以上 |
危険因子なし |
低リスク |
中等リスク |
高リスク |
糖尿病以外の1〜2個の危険因子あり |
中等リスク |
中等リスク |
高リスク |
糖尿病、臓器障害、心血管病、3個以上の危険因子のいずれかがある |
高リスク |
高リスク |
高リスク |
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■ 初診時の治療計画 日本高血圧学会2004
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血圧 130-139/80-89mmHg |
低リスク群 |
中等リスク群 |
高リスク群 |
糖尿病・慢性腎疾患があれば適応となる高圧薬治療 |
3ヶ月後に140/90mmHg以上なら降圧薬治療 |
1ヶ月後に140/90mmHg以上なら降圧薬治療 |
直ちに降圧薬治療 |
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■ 食事療法
食塩制限(ナトリウム制限)
原因によらず、ほぼ全ての高血圧で塩分(塩化ナトリウム)摂取制限は必須となる。2004年版に発行された日本の高血圧治療ガイドラインでは1日6g未満という厳しい減塩を推奨している。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やナトリウムを含む胃腸薬の摂取に対しても注意が必要である。
減塩の具体的なやり方
1.減塩しょう油を使う
2.天然のだしをいかす
3.ハーブや香辛料で味付けする
4.酢や柑橘類など、酸味を利用する
5.味見をせずにいきなり調味料を使わない
6.甘味が濃いと塩分も濃くなりがちなので、砂糖やみりんの量を控える
■ 運動療法
運動は血圧を下げることが証明されている。
■ 生活習慣
@疫学研究から寒冷が血圧を上げることが示され、季節では冬季に血圧が高い。高血圧患者では冬季の寒冷刺激を緩和するために、トイレや浴室などの暖房も望まれる。
A入浴は熱すぎる風呂、冷水浴、サウナは避けるべきである。
A便秘に伴う排便時のいきみは、血圧を上昇させるので便秘をコントロールするべきである。
C喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。喫煙はβ遮断薬の降圧効果を減じる作用がある。
Dアルコールの摂取では一時的な血管拡張により降圧するが、飲酒習慣は血圧を上昇させることはよく知られている。毎日の飲酒習慣は 10歳の加齢に相当する血圧値を示す[2]。降圧効果は1〜2週間以内に現れる。大量飲酒者は急にアルコール制限を行うと血圧上昇をすことがあるが、アルコール制限の継続により数日後から血圧は下がる。
エタノール換算量は、男性が20〜30ml/日(日本酒換算1合前後)、女性が10〜20ml/日以下とされる。
Eストレスは血圧に悪影響を与える。完璧主義者に心合併症が多い。マイペースののんびり人間をめざすようにする。
■ 薬物療法(降圧薬)
ガイドラインに定められた期間を食事療法や運動療法を行い、それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。近年は大規模臨床試験がいくつも出揃い、高血圧治療指針(ガイドライン)では科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
日本では相変わらず主治医の裁量ではあるが、その裁量を欧米の医療に即している医師と、いくつかを改変した日本独自の考え方をもつ医師がいる(こちらのほうが多い)。
日本独自の考え方としては、
・Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げる為、多くの場合で有用である。エビデンスが豊富で、危険因子として特に比重の高い、脳出血は同剤の開発前後で、明らかに減少している。虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮型狭心症の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。
・降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった副作用により、敬遠する医師が多かった。しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防、心不全改善、腎保護効果が明らかになっており、最近見直され処方する医師が増えている。
・日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりない為、たとえリスクの低い患者であっても最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良いが、降圧利尿薬の選択をいつも考慮する。
などがあげられる。
なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。
@降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、耐糖能悪化、尿酸値上昇、低カリウム血症などの副作用にも関わらず、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない脳卒中、心筋梗塞予防効果が、最近の大規模臨床試験の結果で証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。
A糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされる為に長時間作用型Ca拮抗薬の使用も考慮すべきである。
B心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の併用が有効である。最近βブロッカーの少量追加、K+保持性利尿薬も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。
C虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。とくに冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。
D高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要がないとされていた為に2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの降圧目標値が設定されてきた。しかし最近の大規模臨床試験では年齢に関わりなく積極的な降圧が必要である事を明らかにしており(HYVET studyなど)、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定は行っていない。日本の高血圧治療ガイドラインも2004年版では高齢者高血圧も140/90mmHg未満までの降圧が必要であるというように変更された。
E妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるか、ある恐れがあり、ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。
Fαブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは前立腺肥大による尿閉の治療をかねて使用されている。。しかし、 αブロッカーは最近の大規模臨床試験では最も古典的な降圧薬である降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣る事が明らかになり、最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬から外されている。
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